matsuok’s diary

あくまでも個人的意見であり感想です

雇用無き回復 jobless recovery

最近、近所のアパレル会社の建物が無人なのに気が付いた。紳士用衣料製造卸を行っていた。私がもの心ついた頃から営業してきた地元企業だ。8月31日で事業を停止し、自己破産申請の方向で検討中。負債額は約10億円と見られる。1960年代に創業。紳士用ジャケットやスーツを扱い、生産の大半を海外に依存。大手専門店を中心に販路を構築し、ピーク時の93年には年商30億以上。その後は減収が続き、01年頃から連続赤字を計上し、資金繰りが悪化して支えきれなくなったという。会社の前にあった大きな屋敷はいつのまにか更地になり、宅地分譲が始まっていた。生産の大半は海外に依存。全国の大手専門店を中心に販路を構築し、海外からの安価でありながら、高品質の商品が入ってきての倒産ではないか。低価格化、海外への生産移管で成長してきた結果が、企業としての存在意義をなくしてきたかのようだ。そういえば、一時、このあたりは中国人女性が数多くいたが、この会社が労働力までも輸入してきたことを示している。プレスや縫製などの家内工業的なところはまだ残っているが、プレハブの建物のなかからは中国語の声が聞こえてきている。
景気の回復は始まったようだが、今回の景気後退は国内企業の構造自体を変えている。雇用を削減し、削減された生産能力は確実に海外移転されていくだろう。国内に残るのは、流通産業のみであり、郊外型のショッピングモールだけが残るのではないだろうか。買い物を続けることだけが内需の拡大になりそうだ。ではその購買資金はどこから出るのだろうか。
政権が交代し、しきりと内需拡大、外需依存の警告がかしましい。かつてアメリカの製造業は海外移転し、国内に残ったのはIT産業と金融証券が新たな産業として、その富を背景として世界の需要を満たしてきた。いまやIT産業や金融業は限りなくグローバル化している。情報とマネーに国境は無い。

大工、料理人などの所謂、職人の仕事はスキルそのものなので輸入出来るのは、ハイクラスなものだけで国内の雇用先として期待できそうな気もするが、これらも、流通業化しているのかもしれない。個人経営の飲食店は姿を消し、フランチャイズなどの形態の店舗が主要道路沿いに展開されている。某イタリア料理チェーンでは厨房に包丁が無いそうだ。店舗内で行うのは、加熱と盛り付けのみなのだ。こうなるとより、高い賃金を期待できる雇用を生み出すとは思えない。

いまは、グローバル化という黒船が、鎖国状態であった国内経済を構造変化を余儀なくされている。この時代を乗り切る人材を生み出す土壌ははたして今の日本にあるのだろうか。