発注者論理はどこであるけど、利権が関わると見過ごせない
ITシステムの開発費見積もりは、非常に難しい。事前に必要要件が必ずしも明確化されないためだ。
要件は発注者側により決定されるが、一般にITスキルはない場合が多い。となると積算は予算取りのために事前に策定するのは、事実上困難であり、RFP作成のために、調査業務のみをまず外部委託する。以前は大手ITベンダーが「0円」受注するケースもあった。
極論を言えば、ITベンダーの言いなりとなる。
予算さえ取れれば発注担当としては役割はおわりだ。以降開発、運用すべて外部依存となる。
平井大臣の「死んでもNECに発注しない」発言 裏にはIT利権を巡るどす黒い駆け引き
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「NECには死んでも発注しない」「ぐちぐち言ったら完全に干す」――。平井卓也デジタル改革担当大臣の会議での“恫喝”発言を、6月11日の朝日新聞朝刊が「スクープ」した。
「デジタル庁はNECには死んでも発注しないんで。場合によっちゃ出入り禁止にしなきゃな。このオリンピック(アプリ)であまりぐちぐち言ったら完全干すからね。一発遠藤のおっちゃんあたりを脅しておいた方がいいよ。どっかさ、象徴的に干すところを作らないとなめられちゃうからね。運が悪かったってことになるね。やるよ本気で、やる時は。払わないよNECには基本的には」
表現の不適はあるが、民間の発注者側にはよくあるパターンだ。
自分で費用積算や評価ができないユーザー側発注者は、絶対金額のみで判断する。
とにかく値切る。そのために複数業者を競わせる。
従来、外部ITベンダーに丸投げしてきた官公庁や自治体のシステムでは、おきていなかったことを、成し遂げたかもしれない。
しかし、73億円の予算を38億円に減額というのは、一見無茶振りにも思える。受注開発中の工事を、コロナで不要となったから、いらないと一方的に強いるのは、恫喝であり正当な取引とはおもえない。
さて、73億円の予算を38億円に減額したNECは哀れな取引業者なのだろうか。
国会では、1月に政府が契約した「オリパラアプリ」が高過ぎるのではないかと、野党から厳しく追及されていた。前出の関係者が続ける。
「平井さんは担当大臣なのに、実は質問されるまで発注の事実をまったく知らなかったんです。首相補佐官の和泉洋人さんがIT室の一部のメンバーと、業者選定や金額の割り振りまで決めていました。しかも、観戦客を含めて海外から来る120万人が使用するという触れ込みだったのに、海外からの観戦客はゼロになりましたから、アプリは無用の長物と化していたのです」
4月になって73億円の予算を38億円に減額したと公表したが、それにNECが抵抗したという。NECが担当した顔認証アプリの開発はすでに終わっていたにもかかわらず、後から値切られる格好になったため、「ぐちぐち不満を言った」ようだ。
だが、「平井大臣の発言には、もっと他に意味がある」と語るのは、IT業界に詳しいジャーナリストだ。
「オリパラアプリの受注はNTTコミュニケーションズ(NTTコム)やNECなど5社のコンソーシアムで、NECの取り分はわずか4億9500万円。NTTコムの45億7600万円と比べると微々たるものです。それなのになぜNECを“恫喝”したのか。実は38億円への減額は形ばかりで、オリンピック後はその冠を外し、出入国管理に使う別のアプリとして継続することにしたのです。オリパラアプリの契約期限は来年1月までですが、来年以降も継続してカネが落ちるようにしてやった。それなのにNECはぐちぐち言うのか、というのが、平井さんの本音なのではないでしょうか」
図らずも外に漏れた平井大臣の「率直な発言」の裏には、どうやら業界の深い事情があったようだ。
新型コロナ対策でも露呈「霞が関DX」を阻むITゼネコン「ベンダーロックイン」
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国の多くのITシステムは入札によって業者選定が行われるが、その大半がNTTデータやNEC、日立製作所、富士通など、「ITゼネコン」と呼ばれる企業に落札される。こう呼ばれるのは、公共工事を受注する建設会社のゼネコンと同様、自社で受注した物を自社で完成させるのではなく、傘下の「下請け」や「孫請け」などに「投げて」工事を完成させるところが、そっくりだからだ。システム開発も基幹設計をITゼネコンがやっていればまだしも、それすら下請けなどにやらせている事例も少なくない。建設業で言うところの「丸投げ」である。
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首都圏のある中核自治体の場合、大手ITゼネコンに年間数十億円の保守管理費を支払っている。「役所の幹部にITの専門家がいないので、業者の言うがままになっています。自治体によっては外部からIT人材を中途採用していますが、なかなか機能していないようです」とその自治体の幹部は話す。
つまり、ITシステムを構築する力を持つようなIT専門家がいないので、すっかり業者任せになっているわけだ。数年に一度、システム更新が必要だと業者に言われ、多額の追加投資を余儀なくされることも珍しくない。高いから他の業者に相見積もりを取ろうにも、「ベンダーロックイン」でシステム更新を他の業者がやることが事実上できなくなっている。
問題の本質である。
2020年7月に閣議決定した「骨太の方針2020」には、デジタル庁創設などで今後、政府が目指す「デジタル・ガバメント」のあり方についてこう書かれている。
「民間の人材・技術・知恵を取り入れ、徹底した見直しを行い、ベンダーロックインを避け、オープンアーキテクチャを活用し、個人情報の保護を徹底し国民の理解を得つつ、利用者目線に立ちデジタル化・オンライン化を前提とする政策システムへの転換を進める」
新たな利権の枠組みができそうだ。天下りがITベンダーがうけざらになるだろう。
今後、自治体ごとにあるシステムが、クラウドやSaaS化が進行していくだろうが、多くはグローバルな仕組みを取り込むこととなり、安全保障をいかに確保できるかも大きな課題。
公取委、行政システム受注の「囲い込み」を調査
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今回、課題視される「囲い込み」はベンダーロックインと呼ばれる。情報システムに機能や仕組みを搭載する際、受注するIT企業の独自技術を組み込み、運用後の保守やシステム改修といった別の入札でも、独自技術を理由に特定の企業が担当せざるを得ない状況を作り出す。
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2018年度の政府情報システムに関する会計検査結果によれば、省庁発注の競争契約423件のうち、7割超の313件で入札に参加したのが1業者だけの「1者応札」だった。契約別の1者応札は「新規開発」は59.2%で、「既存システムの改修」は94.1%に達していた。
囲い込みは、日の丸だけで可能だろうか。