なぜ起こる鉄道事故
- なぜ起こる鉄道事故
- 作者: 山之内秀一郎
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2005/07/15
- メディア: 文庫
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タイムリーである。
というか。福知山線の事故をにらんで、既刊を文庫で出版。
だから、あてこんでの緊急に書かれたものではなく、まさに当事者だったJRで安全対策に従事した方がかかれたもの。
エンジニアならではの視点で真摯に原因を考察している。
- 共感
事故がおきると、責任の追及が避けられない。
であるが故に、責任のあいまいにしがちであり、各自の思惑で語れがちである。著者は、それはそれとして、あくまでも原因を分析し対策を考えることの重要さを述べている。これはエンジニアとしての姿勢であり、共感できる。
事故を報告されていないことが、問題解決、対策されないことの象徴である。
事故、問題の報告が勤務評定や人事考課につながりがちの減点主義となる。そして、事故隠しの横行となり、最終的には組織ぐるみの隠蔽体質となる。
アクシンデントとインシデントにわけて報告させる海外のやりかたが合理的に感じる。
事故=アクシデントとすると、原因追求が、責任追及になるが、日常の改善項目を報告すれば、前向に認められる。
- JR各社のカルチャのちがい
この著者は、JR東日本で会長までつとめた技官トップである。
昔、聞いた話だが、国鉄民営化の際、JR東日本には、輸送関係、JR東海は人事関係(組合対策)、JR西日本は経理関係の上級官僚系になったとのこと。
そして、東日本と、東海間では、元祖・本家意識の対立があったという。
国鉄民営化の際、行政改革推進の外部の人間がトップに降りてきた東日本、旧国鉄の本局採用の生えぬきが東海のトップになり、東海道新幹線を手中にしたのは東日本ではなく東海だった。
この本では、たんたんと、技術者からみた観点で安全対策について記述してあり、エンジニアの観点から、このような組織的構造からくる問題とは切り離すべきだと主張しているのだが、逆に、このような観点が、西日本ではなかった背景が、西日本のカルチャだとおもえるのだが。
- わたしが危惧すること
国鉄末期、赤字体質の合理化、労使対立は、結果として、人員の採用行政、民営化時の大量離職という現実を生んだ。
そして、民営化したとき、20台の若手はほとんどいなかった。
そして、民営化したら、JR特に、東日本と東海は学生の人気企業となり、非常に優秀な高学歴社員の採用となっている。
この本のなかで面白いのは、国鉄のエリート官僚技官であった、著者が、国鉄入社後、機関車の機関士など、現場周りをさせられ、現場を経験させられていることである。
輸送計画という、ダイヤの作成から、構内作業の計画など、全員がおなじスケジュールと計画で作業してこそ事故がなくおこなえるのだが、現場を知らずして最適な計画や、アクシデントによる臨機応変は指示がおこなえるものだろうか。
国鉄末期/民営化にともなう世代のギャップは、結果として、そのご採用された幹部候補生の現場体験や、継承が不十分なままJRは発展し、輸送量が伸びている。
そして、その民営化に採用された人々がいまや中堅となり、国鉄時代も過去のものとなりつつある。